「君はここで何をしている」
「なぜこの町にいるんだ?」
あっという間に取り囲まれ、立て続けに尋問された。緊張感に包まれながらも、私は素直に答える。
「実は昨夜電車を乗り過ごして帰れなくなってしまったので、この町で一晩過ごしただけです」
「ほぉ、それは災難だったな」
「ここは宿も民家もロクにないだろう。かわいそうに。野宿をしたのか?」
その問いに、レストランに招かれて寝床を貸してもらったことを告げると、役人達はさらに険しい表情をみせて口々に毒を吐いた。
「なんてことだ。あのレストランに泊まっただと?魔物に喰われでもしたらどうする!あそこに住む悪魔は、人間を見れば見境なく爪を突き立てるほど横暴で危険極まりない輩なんだぞ」
「あぁ、あの黒猫だってそうだ。人語を操るうえに、我々が店に入ろうとすると、屋根の上から大量の小麦粉や得体の知れないスープをぶちまけてくる」
「悪い事は言わない。君はもう二度とこんな町に来るんじゃないぞ。わかったな」
頭の中に、魔王様とケットの姿がよぎった。
あのふたりは、決して自分から人を傷つけはしない。
魔王様が人を嫌うのも、ケットがタチの悪いイタズラをするのも、ライアスさんから譲り受けたレストランを守るためだ。
なのに、彼らは“ヒトではない”から。
それだけの理由で町を追われてしまう。
そんなひどい話が許されていいはずがない。