路地の角を曲がりきるまで手を振り続けるケット。可愛い少年に見送られ、私はやっと帰路についた。
本当は来るはずのなかった不思議な町。
唯一明かりが灯っていたレストランで一夜を過ごし、想像を超えた素敵な出会いがあった。
あぁ、そうだ。せっかくなら、記念として一緒に写真を撮って貰えばよかった。
あの人間嫌いの魔王様は、頼んでも簡単には頷いてくれないだろうけど。
「わっ!?」
そんな考え事をしながら町を出ようとしたその時。路地の向こうから出てきた影と勢いよくぶつかった。誰も住人がいないと思っていた故に、前方をよく見ていなかった。
あれ?そうだよね。ここにはケットと魔王様以外いないはずなのに。
顔を上げると、視界に映ったのはペルグレッド国の腕章。
その高貴でカッチリとした制服に、ぶつかった相手の正体がすぐに分かった。
「なんだ、この小娘は」
「この町に出入りするやつがまだいたとはな。あの店の関係者か?」
予想通り、それは国の役人だった。
数は四人。皆、体格の良い男性だ。魔王様がいつも脅しているせいか、複数名で立ち退き勧告に来ているらしい。