「うぅ…ん」


その時、ゆっくりと足を伸ばしたケットが、綺麗なグレーの猫目を開いた。尻尾を私の足に絡ませた彼は、猫の姿のままあくびをする。


「ふわぁ…。おはよー、ミレーナ」

「うん、おはよう」


挨拶を返すと、まだケットは寝ぼけ眼だ。

まどろむ彼を微笑ましく見ていると、ケットはふと何かに気がついたように声を上げた。


「あ、毛布かけてくれたの?ありがとう。ごめん、昨日寒かった?僕が部屋から持ってくればよかったね」

「え?」


ケットがかけてくれたんじゃないの?

そう言いかけて、言葉を飲み込んだ。

いくら寝ぼけているとはいえ、自分で毛布を持ってきたとすればこんなことを言うはずがない。

私の脳裏に、紫紺の髪の彼がよぎった。

まさか。

その心当たりに戸惑うが、他にレストランに出入りする者はいないはずだ。

その時、少年の姿になったケットがキッチンから顔を覗かせた。


「ミレーナ、朝ごはんにしようか。…あー、昨日のスープならあるんだけど、大丈夫?」


そのセリフに思わず頬が緩む。

今頃自分のベッドで寝ているであろう魔王様の姿を思い浮かべ、素直に言葉が出た。


「うん。そのスープ、結構好きよ。昨日よりも美味しく食べられる気がする」