やがて視線が交わった。
藍色の瞳に自分が映っていると認識した瞬間、ドクンと心臓が鳴って体中が熱くなる。なんだか変だ。空気が違う。
ルキの手がそっとこちらに伸びてきたが、表情が変わらないため心理は読み取れない。
「ふぇっ?」
身構えていたその時、頬を優しくつままれた。予想外の仕草に、つい声が出る。
「そんなにこっちを見るな」
「す、すみません」
もしかして、少しだけ照れてる?
そんなことを言ったら、またいつものように鋭い視線で睨まれるんだろうな。
びっくりした。キスをされるのかと思ってしまった。ルキに限ってそんなことをする訳ないのに。
「いひゃいです。どうしてほっぺたをつねるんですか…!」
「わからん。なんとなく触れたくなっただけだ」
目を見開くと、彼は手を離してスタスタと店へ戻って行く。
今、何が起きた?
出会ったばかりの頃も顎を持ち上げられたことはあったけど、今のような優しい触れ方ではなかった。
最近、スキンシップが多くなってきたのは気のせいだろうか。エサには近づきたくなる魔物の本能?
だが、深い意味などない触れ合いも嬉しいだなんて思ってしまう自分がいる。出会って二ヶ月で、ようやく自分の気持ちに気づいた。
私は、あの魔王様に惹かれはじめているんだ。
我ながら、とんでもない相手を好きになってしまったな。
思わずため息をついたハロウィンの夜。
煌々と光る満月が、魔界レストランを照らしていたのだった。