くしゃっと、やや乱暴に頭を撫でられた。
シグレは幼い頃から変わらない兄のような表情で、その瞳にはもう負の感情はなかった。
「こうなるだろうとは思っていたよ。お前は昔から、俺が何を言っても聞かないんだ。そんで、俺もたいがいお前に甘い」
初めて笑みを見せたシグレ。それは呆れたような苦笑に近かったが、大きな障壁が打ち砕かれたことで嬉しさが募っていくのを感じる。
私は、ここにいてもいいんだ。
「やったあ、ミレーナ!これでずっと一緒にいられるね!」
軽いステップで抱きついてくるケットは、ゴロゴロと喉を鳴らしている。やりとりを見守っていたキッチン組のふたりも穏やかな表情だ。
やがて、ルキに歩み寄ったシグレは、深く頭を下げる。
「ミレーナのこと、よろしくお願いします」
予想外のことに驚いたもののまっすぐに見つめ返して頷いたルキに、シグレは心の整理をつけたようにレストランを出た。
慌てて追いかけた私は、ムジナの機関車に向かう背中に声をかける。
「ありがとう、シグレ…!話ができて良かった!」
振り向いた横顔は、ずっと側にいてくれた世話焼きな幼なじみのままだった。
「年明けに、お前のおふくろさん達を連れて食べにくるよ」
“年明け”
それは、このレストランには訪れないはずの時間。背中を押すような言葉の意味に気付かない訳がない。
「うん!待ってる…!最高のディナーをご馳走するから、期待してて!」
ひらりと手を振った彼は、夜の中へと消えていった。
晴れやかな気持ちが込み上げる。
誰よりも味方でいてくれたシグレに認められたことが素直に嬉しかった。