無意識のように溢れたセリフ。戸惑う私に、屈んだシグレは目線を合わせて続けた。


「お前が店から消えたとき、あのオーナーが血相を変えて飛び出したんだ。例えるなら、奪われた大切な宝物を取り返しにいくみたいに。その姿は、俺が想像していた魔物とはまるで違った」


レモン色の瞳が私を映す。

その奥には、認めたくない気持ちと、わずかに生まれた魔物への肯定がせめぎ合っているように見える。


「店の仲間も、悪魔が魔界に消えた後、お前の作り上げたイベントを壊さないように働き続けながらずっとお前を気にかけていた。…ヒトの心を持っていない魔物は冷酷で非情と聞いていたんだが、どうやら間違っていたのは俺の方だったみたいだな」


シグレは目を逸らさずに尋ねた。


「ミレーナ。俺が何を言っても、帰るつもりはないんだな?」


はっ!と目を見開く。

試すような口調は力強い。


「本気でこのレストランを救えると思っているんだろ?」


その言葉に大きく頷いた。

これだけは何があっても譲れない。

人々から忘れ去られた町に来たのは偶然だったかもしれない。でも、私は自分の意志で町に残り、立ち退きを撤回させると決めた。

今さら中途半端に投げ出す気はないのだ。