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「ミレーナ!無事でよかった…!」
《レクエルド》に着く頃、空はだいぶ暗くなっていた。営業時間は終わっており、時計は午後十時を回っている。
ルキに抱きかかえられたまま店に入ると、今にも泣き出しそうなケットが駆け寄ってきた。ヴァルトさんとメディさんも後に続く。
「怪我はないかい…?ゴブリンに連れ去られたんだろう?」
「ごめんね、ミレーナちゃん。私がゴミ捨てに行っていれば、石に変えて返り討ちにしてやったのに」
「私は大丈夫です。ご心配をかけてすみませんでした」
頬に赤みがさす私を見て肩の力が抜けたらしい三人は、安堵の表情を浮かべている。
ルキは優しく床に下ろした。自力で立てたのを確認して安心したようだ。
その時、カウンターの前に立つ青年が目に入った。シグレはまっすぐこちらを見つめている。
“しまった”
はじめに思ったのはそれだった。
もともとここで働くことをよく思っていない彼がいる時に、よりにもよって魔物に連れ去られて命の危険にさらされるなんて最悪だ。
もう、言い訳は通用しない。説得しようと試みても、当然許してもらえないだろう。
しかし、無言でこちらへ歩み寄るシグレにお説教を覚悟したその時。彼の口から放たれた言葉は、予想以上に穏やかなものだった。
「大丈夫か」
顔を上げた先で交わった視線。怒っているようには思えない。
「本当に、あの悪魔が助けてくれたんだな」