「ここに長居は無用だな。話は後だ」


抱き込んでいた肩を離して立ち上がった彼に、手を差し伸べられる。

相変わらずクールな表情だが、その仕草はいつもより優しかった。素直に甘えて手をとるものの、うまく足に力が入らない。もう震えは止まっているが、安心して腰が抜けたのだろうか。

すると、ルキは私が立てないと察したようで、流れるように体を横抱きにした。あまりにも軽々と持ち上げられて胸が高鳴る。


「肩に腕を回せ。このまま連れ帰る」

「ごめんなさい、迷惑をかけて…お、重いですよね」

「気にするな。ヒトに擬態したケットよりは軽い」


そこで、猫と同じくらいと言わないところがルキらしい。

おずおずと抱きつくように腕を回すと、ルキはわずかに口角を上げて歩き出す。体を抱き上げる腕はたくましかった。

あぁ。私、本当に人間界に帰れるんだ。

ふわりと香る落ち着く匂いに不安が消え去って、つい、涙がこぼれそうになる。自分で思っていたよりも精神的に追い詰められていたらしい。落ちないようにしがみつくフリをして、涙を堪えた。


「泣いてもいいぞ。怖かったな」


子どもをあやすような柔らかい口調。

全てわかっているとでもいうように支える腕の中があまりにも心地良くて、少し遠回りをして帰りたいなんて思ってしまうのだった。