その時。会話の途中でルキの顔つきが変わった。気配を察したように森へと視線を向ける。
戸惑いながら見つめていると、森の奥から現れたのはいくつもの影。ローブを羽織り、目深にかぶったフードの隙間から赤い瞳が覗いていた。
「ルキ、あれは…!?」
「グールだ。奴らはヒトを食う」
その数は、ざっと二十。まるで獲物を見つけたかのような彼らは引き寄せられるように近づいてくる。
『実は、魔界の西部でグールの群れが暴れまわっているようで…』
昨日、レストランに来たキーラさんの言葉が頭に響いた。まさか、グールが生息する森に連れ込まれていたなんて。あんな数に囲まれて襲われたらひとたまりもない。ルキが私を見つけるのが少しでも遅かったら…そう考えると背筋が震える。
ぐっ、と肩を抱き寄せられた。ルキは威嚇するように魔力を放つ。
「失せろ…!」
森に響く低い声。
気圧されたようなグールは動きを止めた。知能が低く言葉を理解できないからこそ、ルキの放つ圧倒的な魔力に本能で危険を感じたらしい。
数秒、膠着状態が続くが、ルキは警戒を解かなかった。それ以上こちらに近づけば許さないと言わんばかりの威圧感だ。
やがて、一匹のグールがこちらに背を向け、つられたように群れが動いていく。
やっぱり魔王様ってすごい。あんな短い言葉で群れを従わせる力があるんだ。