包み込むように握り返された。じんわりと伝わる体温。冷え切っていた心に血が通っていく。彼は、何も言わずにじっとお願いを聞いてくれている。
ルキの手って、こんなに温かかったんだ。
こわばっていた指の力が抜けた。あんなに怖くて苦しかったのが嘘みたい。
「大丈夫か」
「はい…すみません。もう平気です」
息を吐きながら答えると、彼は微かにまつ毛を伏せて続けた。
「お前がいなくなったと気付いてすぐ、店の裏手で感じた甘い匂いを追ってきたんだ。睡眠作用のある煙玉は、ゴブリンがよく使う手だからな。犯人はすぐに見当がついた」
ルキはひとりで魔界に飛んできてくれたらしい。きっと、夢中で探してくれたのだろう。
もしも気付いてもらえなかったら、一生棺桶に閉じ込められたままだった。
「ゴブリンに何かされたのか?あんなに怯えるなんて普通じゃない」
「あ…、違うんです。暗くて狭いところがトラウマで…」
戸惑うように眉を寄せた彼に、途切れ途切れに告げる。
「実は私、前世の記憶があるんです。落盤事故に巻き込まれて命を落として…その時の光景がフラッシュバックして気分が悪くなったんです。…信じてもらえないかもしれませんが…」
すると、ルキは曇りのない瞳でこちらを見つめた。
「俺がお前の言葉を疑うわけがないだろう。…怖い思いをさせてすまなかった」