対峙する魔王と幼なじみ。

ルキは普通のお客さんだと思っているようで、誠実に向き直った。


「あぁ。俺が店主だが、なにか?」

「ひとつお尋ねしたいことがありまして。…ここの従業員の中に、ミレーナという名の少女は居ませんか?」

「ミレーナ?それなら…」


素直に頷こうとしたルキの服を引っ張った。

お願い、言わないで…!

無言のオーラを飛ばす私。すると、その仕草に数秒声を止めた彼は声色ひとつ変えずに続ける。


「知らないな。ウチの従業員はここにいるので全員だ。そのような名前の少女はいない」


ナイスすぎるアシスト。状況を察して誤魔化すルキは、背後からの念に気付いてくれたらしい。

ヴァルトさん、メディさん、ケットと順番に確認したシグレは、尋ね人の不在に怪訝そうに眉を寄せた。


「俺は、ミレーナの身内みたいなものなんです。あいつのおふくろさんから、娘がここで働いていると聞いてきました」


まさか、情報源はお母さん!?

ルキの背に隠れ、マントの隙間からこっそり覗くと、シグレが手に持つグルメ雑誌にはふせんがしてある。おそらく、たまたまシグレがウチに立ち寄った際に、めったに買わない雑誌にふせんまでしていたことを不思議に思って尋ねたところ、お母さんがうっかり口を滑らせてしまったのだろう。

家族ぐるみの関係性を甘くみていた。こんな形でバレるなんて。