一瞬で空気が凍りついた。

冷ややかな瞳は、初めて会った時の記憶と重なる。


「も、申し訳ございません。出過ぎた真似を致しました」


その場にいた皆がゴクリと喉を鳴らした時、ルキは大臣の肩に手を置いた。

恐怖からか、体を震わせる大臣。

しかし、ルキの口から聞こえたのは、先ほどの怒気を含む口調とは異なる冷静な声だった。


「もちろん、お前の言い分も理解できる。俺も今までは残虐な手法をいく度も選んできた。だが、これからは違う」


予想外のセリフにアラク大臣が顔を上げると、まっすぐ彼を見つめたルキは静かに続けた。


「キーラや臣下に負担をかける振る舞いをしていることはよく分かっている。しかし、ライアスとの約束がある手前、俺にも譲れないものがあるんだ。政治に関してのお前の腕は信頼している。キーラのことも心配はしていない。留守の間、頼りにしているぞ」


大臣は、目を丸くして硬直している。


「わ、私にはもったいないお言葉です。このアラク、力の限りキーラ様を補佐して参ります」


深く頭を下げた大臣に、ルキはそれ以上何も言わなかった。

確かに、目の前のルキは魔王と呼ぶにふさわしい冷酷な心を持ったままだ。しかし、今の彼にはそれ以上の何かが生まれているような気がする。

きっと、出会った頃なら、迷わず力で制圧するように指示していただろうし、臣下に対してこのような声かけはしなかっただろう。

その姿は、普段私には見せない人格者そのものだった。