『争いは争いを生むだけです。それでは意味がありません!』
かつて、役人を容赦なく始末しようとしたルキに言った言葉。それをルキは覚えていてくれたらしい。
思いもよらないセリフに胸を打たれていると、にわかに信じがたいといった様子のアラク大臣が無意識に呟いた。
「その娘が…?ルキ様。長く魔王として民をまとめ上げてきた貴方のお言葉とは思えません。そのようなことを本気でお考えなのですか…?」
すると、大臣は内に秘めていた思いが溢れるように語り出す。
「ルキ様は、いつまでこのような場所で人間と馴れ合うおつもりでしょう?キーラ様が王としての責務を果たしているとはいえ、民は貴方のご帰還を心待ちにしております。もちろん、私もです」
「何度も言っているだろう。少なくとも、この町のダム建設が白紙になり、立ち退きが撤回されるまでは戻るつもりはない」
強く言い切ったルキ。徐々に強くなる語気に、おろおろと見つめることしかできない。
大臣は、まるで懇願するように続けた。
「ルキ様のおっしゃるような平和的な解決など魔物の前では無意味です。そのような生温いお考えでは、いずれ足元をすくわれます。絶対的な力を持つ魔王の言葉ならば、少々強引だろうと、民も理解してくださるでしょう」
ヴァルトさん達も、ふたりのやり取りに引き込まれているようだ。緊迫感が漂う。
すると、ルキが私から一歩離れた。ゆっくりと大臣の前へ進み出る。
嫌な予感がしたその時、ルキは低く言い放った。
「アラク」
「はい」
「お前は、いつから俺に意見をするほど偉くなった?」