すると、アラク大臣の言葉を合図に、若い青年が扉の向こうから顔を出した。
紫紺の髪と藍色の瞳には既視感がある。
レストランに足を踏み入れた青年は、まっすぐ私の方へと歩みよって優しく微笑んだ。
「初めまして。あなたがミレーナさんでしょうか?兄からお話はかねがね伺っております。僕はキーラです」
「兄…?もしかして、ルキの弟さんですか?」
「はい。今は兄に代わって王として仕事をしています」
なんとも爽やかな声。相手を安心させるようなしっかりした受け答えからは王族の品を感じた。
見た目は本当にそっくりで、ルキを私と同い年くらいまで若返らせたように見えるが、強いて違いを挙げるとするならば、タレ目なところと穏やかな雰囲気だろうか?
突然の来訪者に緊張している様子の魔物たち。従業員に会釈をしたキーラさんは兄へと向き直る。
「お久しぶりです。お元気でしたか、兄様」
「あぁ。まさかお前までここに来るとはな。何かあったのか?」
「実は、魔界の西部でグールの群れが暴れまわっているようで、城下町に被害を出さないための策を相談したいと思い、参りました。グールは知能が低い上にまともに話ができる相手ではないので、いい案が思いつかなくて」