その時、レストランの扉が開いた。鈴の音に目を向けると、店に入って来たのはスーツを着こなした痩せ型の男性。
きっちりとまとめられたオーバーオールは真面目そうな印象で、フレームのない眼鏡がより一層仕事ができそうな雰囲気を醸し出している。
「すみません、本日はもう閉店の時間なんです」
そう声をかけるが、彼は驚きもしない。
うやうやしく頭を下げた男性は、低い声で話しだした。
「だんらん中に失礼いたします。私は魔界城で大臣を務めておりますアラクです。ルキ様はいらっしゃいますか」
彼の口から語られた挨拶にドキリとした。
言われてみれば、白い肌と指揮棒のように長い指はヒトにはみえない。人間の私でさえ禍々しいオーラを感じた。さすが、大臣ともなれば普通の魔物とは格が違うのだろう。
雑誌を眺めていたときとは一変し、真剣な表情のルキが嫌悪に尖った声で答える。
「アラク。断りもなしに何の用だ。この店の所在地は教えていないはずだが?」
「申し訳ございません、ルキ様。ご相談したいことがありましたゆえ、人間界の視察がてら魔力をたどって伺った次第にございます」
「相談だと?」
「はい。詳しいことはキーラ様よりお聞きください」