「お前ら、そんなところで何をしている」
聞き慣れた低い声が耳に届いた。
店内に入ってきたルキ。あろうことか、その背後には例の女性が立っている。よく見ればスタイルの良い美人だ。ルキと並ぶととても絵になる。
不思議そうな顔をしてこちらを見つめるルキに、無意識のうちに声が漏れていた。
「あの、そちらの方は…?」
従業員達の好奇心がマックスに達したその時。にこっと歯を見せた女性が私に歩み寄った。
「はじめまして。私は、meetという雑誌の記者をしております。グレンダです」
「記者さん?」
meetといえば、ペルグレッド国で有名なグルメ雑誌だ。飲食店にレビューをつけたり味の感想を載せたりできるアプリも手掛けており、家族や友人と外食に行くときに参考にしたことがある。
流れるように差し出される名刺。ルキが手に持つ白い紙も、それと同じ名刺だった。
なんだ、連絡先じゃなかったのか。
なぜかわからない安堵感が胸に広がったその時、グレンダさんは私の手をとる。
「実は、お願いしたいことがありまして。オーナーさんに聞いたら、あなたが承諾したら引き受けてくれるとおっしゃったので」
私の承諾が必要な案件?
思わず身構えたものの、彼女の表情は明るい。
「ぜひ、《レクエルド》を取材させてくれませんか?最近話題のスポットとしてmeetに掲載させていただきたいんです」
「えっ、この店をですか…!?」
全国的に名の知れたグルメ雑誌が、ウチを取材?
彼女の口から飛び出したのは、願ってもみない取材依頼だった。
ふたつ返事で承諾し、取材記事とあわせて月末に企画していたハロウィンイベントの宣伝を載せてもらうことで話がついた。
しかし、国一番の有名店への足掛かりとなると思われたこの出来事がとんでもない事態に発展することを、この時は知る由もなかったのである。