手に持っていたメモが宙を舞った。
楽しそうなメディさんに、床にばら撒かれた紙を拾いながら慌てて答える。
「まさか!そんなんじゃないですよ…!どうしてそんなことを」
「だって、魔王様はミレーナちゃんに特別甘いじゃない。家に来た時だって、彼はあなたを脅した私を怖い顔で睨んでたし」
ルキが私に甘い?
全く心当たりがない。
困惑して眉を寄せていると、小さく吹き出したメディさんは柔らかい口調で続けた。
「そんな顔しないで。気のせいだったらごめんなさいね。でも、魔王様はミレーナちゃんをとても大切にしているように見えるわ」
ずっと意識したことはなかった。
ルキが大切にしてくれているとしたら、その理由は、レストランの再建に関わる仲間だからだ。
実際、役人に襲われかけた時も助けてくれたし、何度も力を貸してくれた。だが、人間嫌いの彼に認められたからといって深い意味があるわけじゃない。
『接客以外では、お前としか関わらないつもりだ』
都市に出かけたときにあんなことを言っていたけれど、それも、他の人間よりは私といる方が慣れているというだけでなんとなく口にしたのだろう。
「なになに?ふたりでなんの話をしてるの?」
ぴょこっ!とカウンターに現れたのはケットだ。
ルキの大事な飼い猫に知られたら「えっ!ミレーナとご主人様の恋バナ!?」と目を輝かせて面白がるに決まってる。
なんとかはぐらかさなければ。
「し、新メニューを考えてたんだよ。ほら、このメモ」
「ケット君。魔王様はどこにいるの?まだ寝てる?」
すかさず遮ってニヤリと笑うメディさんに慌てる。
しかし、ケットの返答は小さな動揺を吹き飛ばすほど、思いもよらないものだった。
「ご主人様なら、今、テラス席で綺麗なお姉さんとお話ししてるよ!」
「「え?」」