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「ミレーナちゃん、このティラミスをテーブル席に運んでくれる?」

「はい!了解です」


後日。パティシエールの制服を身にまとったメディさんがカウンターから顔を出した。

彼女は婚約を機にマオットさんの家で暮らし始め、生活の拠点を完全に人間界へシフトしたようだ。

テラス席の工事も無事終わり、満を持して迎えたカフェの営業は女性客やカップルで賑わっている。


「メディさんのスイーツ、ニコッターに載せた瞬間から大反響でしたよ!可愛らしいだけじゃなくて、味も都市の有名店と遜色ないって」

「それは良かった。でも一番は例の写真の影響かしら?」


彼女の言う写真とは、スイーツの宣伝に合わせて載せたメディさんとマオットさんのツーショットだ。

レストランでプロポーズが成功したという縁起の良い話がSNSで広がり、“《レクエルド》に行くと恋が成就する”や、“愛しい相手とずっと幸せでいられる”なんて噂がささやかれるようになった。

もはや、一種のパワースポットである。

これは小声だが、噂に乗じて、恋が叶う悪魔キーホルダーやヴァンパイア恋みくじを会計横で売り出したのは悪い大人たちだ。私の差し金ではない。