「……先生?」
 まだ涙に濡れたままの大きな目で,瑠花は俺を見上げていた。
「病気との闘いは,孤独なんかじゃない。俺もいるし,江畑もいる。クラスの連中だってきっと分かってくれるよ。……だから一人で抱え込むな」
「うん……! 先生,ありがと……」
 俺の言葉がよっぽど嬉しかったのか,彼女はまた泣き出した。
「一緒に頑張ろ。森嶋の命が燃え尽きる,最期の瞬間まで」
 俺は彼女を抱きしめながら,そう言った。――そこがまだ学校の敷地内だということも忘れて。
 自分の余命を知らされてから,彼女が強がっていたのは本当だったらしい。
 それまで泣くのを(こら)えていた反動なのか,その後しばらく彼女は泣き続けていた。そして俺は,カラーシャツが濡れるのも気にせずに彼女の体を受けとめながら,彼女をあやすようにその背中をトントン叩いていた。
 泣きたいだけ泣かせてあげよう,そう思った。
――気が済むまで泣いた後,瑠花は真剣な表情で俺を呼んだ。
「……ねえ先生」
「ん? なに?」
「どうでもいいけど,ここまだ学校だよ?」
「あ……」
 ……しまった!彼女との恋愛は学校内では秘密だったのに,思いっきり校内でラブシーンをやってしまった!