「……うん。分かってるよ」
 俺も気持ちは同じだった。けれど――。俺は教室の中に一人でポツンといる瑠花を見遣った。
 彼女も口にこそ出さなかったけれど,本当はあんな状態に納得はしていなかったはずだ。あんなに淋しそうな表情をしていたのだから……。
「センセが瑠花のこと気にしてるのは分かってるよ。あたしも,瑠花には悪いと思うけど。絶対に今のまんまじゃダメじゃん? 『あの子が授業を休むのはサボりなんかじゃなくて,病気のせいなんだ』って,ちゃんとあたし達が誤解解いてあげないと!」
「……そう,だよな。俺達が森嶋を守ってやらないとな」
 クラスで彼女の味方になれるのは,その時は俺と江畑だけだったのだから。
「そうだよ! だから早速,今日の終礼の時にでも,みんなにホントのこと話そうよ。みんなだって,きっと分かってくれるよ」
「分かった。早い方がいいよな」
 手遅れになる前に――。彼女が元気でいるうちに,生徒達に理解を求めなければ。それが担任である俺の務めだと,その時の俺は思った。
「んじゃ,話もまとまったことだし。あたしは瑠花のところに戻るね」
「おう。俺も今から昼メシだから」
「――ゴメン,瑠花! お待たせ! ……あっ,食欲あるみたいでよかったよー」
 再び瑠花と昼食を摂り始めた江畑に彼女のことは任せて,俺は職員室へと引き返した。