「あれ? 他のヤツはどした?」
 瑠花は諦め顔で弁当を突っついていたが,江畑はその状況に納得がいかなかったらしく,不機嫌な顔をしていた。
「"どした?"も"こした?"もないよ,センセ! ……ここじゃちょっと。あっ,瑠花。ちょっとゴメン!」
「う,うん……?」
 瑠花のことを気にした江畑は箸を置くと,俺を廊下まで引っぱって行った。
「あれって,やっぱり……」
 瑠花がいないところでしか話せないということは,悪い予感が的中してしまったということだと俺は理解した。
「うん,そう。みんな瑠花が先生達から特別扱い受けてるって誤解してさ,あの子のことハブったんだ。もうサイアクの展開だよ」
「ハブ……!? マジか……」
 眉間(みけん)にシワを寄せてまくし立てる江畑に,俺は絶句した。
「こうならないことを願ってたんだけどな……。江畑,どうするよ?」
 このままでは,瑠花(かのじょ)はずっと誤解されたままで最期を迎えてしまうかもしれなかった。
 生徒達の誤解を()くには,彼女が望んでいなくても,彼女の病状について彼らに話してしまうしかなかった。
「…………もう,話すしかないんじゃないの? 瑠花には申し訳ないけど」
 江畑はきっと,みんなが自分の病気のことを知った後の瑠花の気持ちを考えたのだと思う。彼女は親友思いのいいヤツだから。――瑠花がいなくなった今も。