「ありがとうございます。どうかよろしくお願いします」
 俺は西本先生に頭を下げて,自分のデスクに戻った。
 ……瑠花は今頃病院だろうか? 俺はふと思った。主治医の先生とどんな話をしているのだろう,と。
 彼女の病状が悪化していないことを,その時俺は切に願った。

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 ――その夜はなかなか寝つけず,迎えた翌日の朝。
「おはようございます,木下先生!」
 職員用駐車場(ちゅうしゃじょう)に停めた車から降りた俺に,瑠花が元気に挨拶してきた。
「おはよ。……あれ? 今日,江畑は?」
「日奈なら,部活で今日は早く登校してるはずだよ。ソフトボール部のキャプテンだから」
「あ……,そっか。部活な」
 そういえば,江畑は都内屈指(くっし)強豪(きょうごう)である我が伸栄高校ソフト部の主将(キャプテン)だった。
 そして,江畑の名前が出て思い出した。
「……そういや昨日,病院に行ってたんだって? 具合はどう?」
「ああ,日奈から聞いたの? ――もう大丈夫だよ。今のところはね。昨日,念のために点滴打ってもらったから」