「はあ……,ちょっと拝見します」
 西本先生はプリント用紙を手に取って目を通した後,表情を曇らせた。
「これが……,森嶋さんの進路……ですか?」
 彼もまたショックを受けているらしかった。
 国語教諭といえば,いわば文章や文字のプロと言ってもいい。だからすぐに分かったのだろう。彼女の書いた文字に迷いがないことを。
「そうなんです。彼女は迷うことなくそれだけを書いて,僕に提出したんです」
 将来のことを何も考えていない生徒なら,いい加減な気持ちでふざけたことを書くということもまあ,なくはない。でも,瑠花の場合は違った。
 彼女は将来のことを考えていなかったわけじゃない。考えていても,実現できなかったのだ。
「誤解しないでほしいんですが。彼女は決して,いい加減な気持ちで書いたんじゃないんです。それが精一杯だったんです。それだけは分かってやって頂けませんか?」
「もちろんです。そういう事情なら……,きっと進路指導の香田(こうだ)先生も納得して下さるでしょう。――それで,木下先生。森嶋さんのことでお願いしたいことって何でしょうか?」
 俺は意を決して,話を切り出した。