瑠花は「自分の病気のことはみんなに黙っていてほしい」と言っていたけれど,そうも言っていられなかった。
 彼女が(おこ)るだろうことは予想していたけれど,彼女にはクラスの仲間達とギスギスしたまま最期を迎えてほしくなかったのだ。江畑もきっと,俺と思いは同じだったはずだ。
「分かってるよ。いざって時は,援護射撃よろしく」
「オッケー,任せといて☆ センセ一人を悪モノになんかしないから」
 たとえ瑠花本人が望まないとしても,彼女を孤立させるよりはよっぽどいいと俺達は思ったのだ。
 それで彼女が,俺達を(うら)むことになったとしても……。
 下校していく江畑を見送ってから,俺は職員室に向かった。他の先生方に森嶋瑠花の事情を話すのに,この日提出された進路希望はいい切り札になったと今は思う。

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「――西本(にしもと)先生,ちょっといいですか?」
 職員室に戻った俺は,自分の席に戻る前に学年主任の西本照也(てるや)先生の席まで行った。
 彼は五〇歳の国語教諭で,柔道(じゅうどう)をやっているとかで体育教諭でもないのにガッシリした体格をしている。