「――ところでさ,森嶋の病気のこと,他の先生達に話しておこうかってことになったんだけど」
 俺は江畑に,その日の朝に瑠花と話し合った内容を打ち明けた。
「お前はどう思う?」
「う~ん……,"どう?"って訊かれても……。いいとは思うけど。それで瑠花(あのコ)がつらい思いをすることになんなきゃね」
 江畑は反対こそしなかったが,気になる言い方をした。親友としては,諸手(もろて)()げて賛成,とはいかないらしかった。
「どういう意味だ,それ?」
「クラスの他の子達はまだ,瑠花の病気のこと知らないワケでしょ? だから事情も知らずに『アイツだけ特別扱いされてる』とか,『授業サボっても何にも言われない』とか悪く言われて,最悪はクラスで孤立(こりつ)するかも,ってこと」
「あ……」
 江畑からの指摘に,俺はハッとした。別に生徒を信じていなかったわけじゃないけれど,そこまでは考えていなかったのだ。
 一人でも悪意を持てば,それは病原菌(びょうげんきん)のようにたちまちクラス中に感染していく。
「ねえ,センセ。マジで瑠花の立場がヤバくなったら,みんなにあのコの病気のこと話した方がいいと思うよ。それがあのコの望んでないことだって分かってるけど。何なら,あたしも共同戦線はるから」