彼女はその場で何の迷いもなく,進路希望を書いて提出した。
「先生,書けました」
「あ……,うん」
 彼女が提出した進路希望には,一言だけこう書かれていた。

 "精一杯生きる!"と。

 つい二日前に本人からは聞いていたけれど,これが唯一の進路希望なんて切なすぎる。でも彼女には,これしか書けなかったのだ。
「……えーっと,進路については親御(おやご)さんともよく相談して,ちゃんと自分の将来のことを考えて決めるように。じゃ,今日はここまで」
 俺は動揺を何とか隠して,その日の終礼を終えた。……が。
「――ねえセンセ,瑠花の進路希望には何て?」
 江畑が教卓の俺のところまで来て,絡んできた。
「お前なあ,これは個人情報だぞ? いくら森嶋の親友だからって,そんなホイホイ教えられると思ってんのか?」
「え~~? いいじゃん! あの子の病気のこと知ってんの,クラスではあたしとセンセだけなんだし」
 ……どういう理屈だよ。俺は呆れたけれど,江畑なら話しても大丈夫かもしれないとも思った。