「――ねえ先生,"大事な話"ってなに?」
 いつも二人で話す時に来ていた校舎裏まで来ると,瑠花が俺に訊いてきた。
「うん……。あのさ,森嶋の病気のことなんだけど。クラスの他の連中にはまだ言わないけど,他の教科の先生達には話しといた方がいいと思うんだ。余計なお世話かもしんないけど……」
 それは,その前日に俺が一生懸命考えて出した結論だった。
「ううん,そんなことないよ。村田先生は養護の先生だから知っといた方がいいと思って話したけど,どうして他の先生にも?」
「う~んと……,森嶋はこの先いつ病状が悪化するか分かんないだろ? で,授業途中に抜けたり,早退したりしなきゃなんないこともあるかもしれない。その時に,"サボり"扱いされないように色々と配慮(はいりょ)してもらう必要があるから」
 彼女は体育の授業には出られないし,他にも前述(ぜんじゅつ)の事情により,特別に配慮してもらわないといけなかった。
「森嶋から言うのが筋だとは思うけど,言いにくいなら担任の俺から話してもいい。……どうする?」
 こんなことを生徒から話すのは,すごく勇気がいると当時の俺も思った。彼女はこと自分の病のこととなると(いさぎよ)いけれど,さすがに他の教員達に「わたしを特別扱いしてほしい」とは言いづらかったろう。