「――着いたぞ」
 車は瑠花の家の前に着いた。俺は体調がまだ万全ではない瑠花のために,一度車から降りて助手席のドアを開けてあげた。
「瑠花,はいどうぞ。足元気をつけてな」
「ケイちゃん,ありがと」
 王子様よろしくエスコートした(俺は元々そんなキャラじゃないのだが)俺に,瑠花は感謝の言葉をかけてくれた。
「じゃ明日,連絡待ってる。お母さんによろしくな」
「うん。……あ,待ってケイちゃん」
「ん?」
 車に乗り込もうとした俺を引き留めた彼女は,次の瞬間――。
 背伸びをして,俺にキスした。
「……! おい⁉」
 顔を真っ赤にしてうろたえた俺と同様に,彼女自身も顔を赤らめていた。
「実は,ファーストキス……なの。でも相手がケイちゃんだから。じゃあ,今日はありがと」
 上目遣いで弁解した彼女は,まだ戸惑っていた俺に手を振ってさっさと家に入っていった。
 彼女をここまで大胆な行動に走らせた原動力は,やっぱり死期を悟っていたからだったのだろうか。