「なんですってぇっ!?」
7月にしては肌寒い木曜日。
私、広瀬翔子は、やっとのことで風邪が完治して3日ぶりに登校した教室で、思わず大声を上げた。ざわついていた教室内が、一瞬水を打ったように静まり返る。
やばっ。
「あ、あははは……」
引きつり笑いをしながら『何でもないよ!』と周りに手を振り誤魔化して、私に大問題を通告した張本人、親友でクラスメイトの山田香織に向き合い、大きく息を吸い込んだ。
「って香織、どういうことよ? なんで私がバスケのメンバーなの!?」
思わず声が裏返る。
私が40度の高熱で風邪のウィルスを退治しているとき、学校では毎年恒例のクラス対抗球技会のメンバー決めがあったのだ。種目は、バレー、バスケット、サッカー、野球の4つで、必ずどれかには出場しなければならない。それがよりによって、私がバスケの選手だなんて。
冗談にしても、笑えない!
むすっと眉間に深い縦皺を作ってむくれている私に、香織が楽しそうに口を開いた。
「なんでって、坂崎君のご推薦。現役バスケ部のエース・プレイヤーの推薦だもん。すんなりそのまま決定されましたとさっ♪」
私の心を知ってか知らずか、香織は『ニシシ』と、ちょっと人の悪い笑顔を浮かべた。
アイツか!? あのオチャラケバスケ小僧の仕業か!?
『バスケは、もう一生やらない』
それは、私が3年前、中2の夏に固く心に誓ったことだ。
なのに、なのに一体全体この状況はなんなの!?
「いいじゃない、バスケやってみれば? インターハイに出るんじゃないんだし、気楽にさ」
「私はもうバスケはやりたくないの! 疲れるし、汗くさくなるし、もともと好きじゃないし!」
「へぇ、それは初耳だ」
背後の頭上から降ってきた聞き覚えのあるハスキーボイスの持ち主に、私は鋭い視線を投げ付けた。長身の一目でスポーツマンと分かる体型をした黒目黒髪のバスケ小僧は、朝から実に爽やかなオーラを放っている。
「どういうことよ!?」
「どうって、現役選手はメンバーに1人と決まってるからな。経験者を入れた方が、勝つ確率が上がる。 実に単純明快な論理だろう?」
そう言うと私の幼なじみ兼今は頭痛の種の坂崎真悟は、私をニコニコ見下ろした。