「……ねえねえ、ここ最近んとこ、どうなの?」
仕事で出世したとか、成功したとか。何らかの理由で見目のそこかしこに金持ちアピールをしてくる大徳の時計を見て、凛のために裏に潜った成美の代わりに食器を片付けていた。
…早く戻って来てくれ、そう思えど、客の手前無視は出来ない。
「どうとは」
「このお店、前来たときボロッボロだったじゃない。あ、見た目はぜーんぜん、今も一緒だけどぉ。ふふ、僕思うんだよお、ビジネスって、ギブアンドテイクじゃない」
…こいつ90度の酒一気に飲んで急性アルコール中毒とかなんねえかな、と思いつつ適当に顔を傾ける。
「ギブアンドテイク」
「そそっ。だっからさー? なるちゃん。なるちゃんがさ、昔みたいに頑張ったら、いけると思うの、一稼ぎ。僕ね、お金はたっくさん持ってるの。増えたの! …女なんて、身売りしてなんぼじゃん。どーせもう使い道ないんでしょ、僕が買ってあげるよー」
「…はは」
「あ! でももうちょっと無理かも! 前の時でも結構ギリギリだったもん、年増女はちょっとなぁ。熟女専門のとことか紹介するよ。出し惜しみしてる場合じゃないでしょ、ど貧民だもんね。どーせ一度はその道に落ちたんだ、ここでストリップでも始めて一儲けしろよっての!」
言い終える前に、引っ掴んだ体を店先にぶん投げていた。
引き戸のガラスが割れて仰向けになるそいつに馬乗りになり胸倉を掴んだ所でその声が耳に届く。
「栄介!? 何やってんの! やめなさい!!」
「…こいつぶっ殺してやる」
「栄介!!」
「なんでだよ!!」
硝子に突っ込んだ衝撃と泥酔で寝こけるそいつから手を離す。叫んだら屈辱で涙が滲んだ。
「なんでこんなクズみたいな奴に好き勝手言われて黙ってんだよ!! とっととつき返しゃいいだろ!!」
「それでもうちの大事なお客さんなの。一人だって、私たちの生活には欠かせないの。栄介だってもうわかるでしょ」
「人間の意志も尊厳も侮辱されてそんで泣き寝入りしろってか冗談じゃねえ、のたれ死にゃいーんだよこんなやつ」
「あんたねえ!!」
「なんだよ!!」
震える手に打たれた。意識が飛んで、ジン、と後から痺れる左頬に、向かいで涙を流した成美にぐん、と胸倉を掴まれる。
「—————————あんたなんか、」
その言葉の先を聞きたくなくて目を瞠った。
怒っているのに涙が溢れて、頰を伝った瞬間驚いた相手に突き飛ばされる。