「佳宏、家族ってなんだろうね。」

銀座のホテルで 食事をした夜。


はしゃいだ子供達が 眠った後で 美咲は聞く。
 


「家族か。うーん。生きがいとか。」


佳宏は 少し考えて答える。


「本当ね。毎日 バタバタしていて。自分の時間もなくて。でも幸せなのが不思議。」


美咲の言葉に、佳宏は 温かい笑顔を見せる。
 

「家に帰ると、美咲が動き回っていて。詩帆ちゃんと幸ちゃんの騒ぐ声がして。全然、落ち着かないのに 嬉しいんだ。」


佳宏が言って、美咲も 笑いながら続ける。
 

「そうそう。子供達 うるさくても 嫌じゃないの。私 子供好きじゃなかったのに。自分の子供って 嘘みたいに可愛くて。」
 

「でもさ 美咲との子供だからだと思う。詩帆ちゃんの 声とか話し方が だんだん美咲に似て来て。幸ちゃんの 笑った顔とかも。だから子供達、可愛くて。」

佳宏が “ 美咲との子供 ” と言ったことに、美咲は 驚きと喜びで 佳宏を見つめる。
 

「拗ねた幸ちゃんの顔が 佳宏に似ている時とか 私も 嬉しくて笑っちゃう。」

美咲が言うと 佳宏もフッと笑う。
 

「俺 拗ねた顔 しないでしょう。」

と言って はにかんだ笑顔を 美咲に向ける。


美咲は 笑いながら、小さく首を振り、
 


「麻有子が まだ会社にいた頃 絵里加ちゃんがお腹にいて 産休に入る前にね。麻有子、お腹を撫でながら 智くんとの子供だから 姿が見えないうちから 愛しいって言っていたの。」

美咲が言うと、佳宏は 静かに美咲の 次の言葉を待つ。
 

「別の人の子供だったら こうは思わないって。その時 私 よくわからなかったの。自分の子供は みんな可愛いと思っていたから。」


美咲は 言葉を切って、佳宏を見つめる。

佳宏は、静かに美咲を抱き締めた。