蘭に「外に出るな」と言われて一週間。
私の精神状態は、ギリッギリのところまで来ていた。
この屋敷での生活で、唯一の癒しと言えば渚くんだったのかと、
改めて理解した。
渚くんたちが住む小屋で、シュロさんと渚くんとトランプをしていた時間が懐かしい。
自分の愚痴を聴いてくれる相手がいない。
溜まっていく一方。
この一週間で食欲がなくなり。
昼食に出されたサンドイッチを黙って見つめていた。
「カレンさん、せめてスープだけでも召し上がってください」
シュロさんが緑色のスープを目の前に置いた。
「ありがとうございます」
私はシュロさんにお礼を言う。
けど、スプーンを手に持ったまま手が動かない。
食べて何になるのだろう?
ここで生活して何になるのだろう?
食べて、勉強して何になるのだろう?
意味はあるのかって。
考えるようになってしまった。
毎晩、寝る前に泣き果てて。
上手く眠れない日々が続く。
今日も明日も、ずっとつまらない毎日が続く。
そう考えると。
何もかもがどうでもよくなってくるのだ。
「カレン、朝食も食べなかったでしょう。食べたほうがいいわ。シュロは、料理の才能だけはあるんだから」
「料理だけって言うな!」
近くに立っていたサクラさんは、本日。男性モードらしく。
男の姿で執事の服を着ている。
サクラさんの毒を含んだ物言いに、シュロさんは怒りながらもこっちを見ている。
2人が見ているのだから。
少しは食べなきゃと思いながらも。
手が動かない。
「おいっ。シュロ。パンを用意しろ」
スープを目の前に固まっている私の前に。
大声で蘭がやってくる。
ああ、今。いっちばん会いたくない奴なのに。
どうして、来るかな・・・。
思いとは裏腹に、蘭は目の前に座った。
「何だ、おまえ。ずっと食欲ないんだって?」
蘭の大きな目が私を見つめる。
とっさに私はサクラさんを睨んだ。
蘭に告げ口をするのは、サクラさんしかいない。
サクラさんは、こっちに向かってにっこりと微笑んだ。
何で、この人。微笑んでるんだろう・・・
「おまえ、ただでさえ。ガリガリで色気がないのに。食べろよ」
蘭は運ばれてきた白パンを口にする。
蘭にだけは、ガリガリと言われたくないっ。
「食欲がないので、これにて失礼します」
私は立ち上がる。
蘭はこっちを見て睨んだ。
「おい。ちゃんと食べろって言ってるだろう」
大声で言う蘭だが。
そんなのどうだっていい。
「食欲がないので、大丈夫です」
「あのなー、おまえはちゃんとここで健康に生きる義務があるんだよ」
蘭の一言に。
張りつめていた糸が切れそうになる。
「それは…、私の兄と約束したからですか?」
蘭に負け時と睨み返した。
サクラさんとシュロさんは黙って私達を見つめている。
「そうだ。俺はアズマにおまえを託されているからな」
私は思わず「はっ」と鼻で笑ってしまった。
「いくら命の恩人である兄の頼みだからって、蘭様は心の中ではイヤイヤ我慢されているのでしょう?」
「…どういう意味だ?」
蘭は皿の上にパンを置いた。
だいたい、外見と中身がちぐはぐすぎる。
整った顔をしているのに。
目の前にいるのは悪魔だ。
「蘭様とあろう方が没落した貴族である上に、こんな顔に痣のある醜女を嫁にするなんて。おかしなことではありませんか?」
蘭に負け時と大声で、ゆっくりと言った。
「あなた様の恩恵は充分に受けております。兄だって納得されていることでしょう」
皮肉を込めて言うと。
蘭は、ガタンと勢いよく立ち上がってこっちへと近づいてきた。
私の前に立ったかと思うと、手を振り上げたので。
シュロさんとサクラさんは「おっ」「あっ」と声を漏らす。
私は叩かれると思い、目を閉じた。
だけど、顔に痛みを感じることはなく。
痣の上から、手の温もりを感じる。
恐る恐る目を開けると。
蘭が今にも泣きそうな目をして私の頬に触れていた。
「俺がおまえのことを気持ち悪いだなんて思ったことは一度だってない」
「なっ…」
何言ってるの…と言おうとしたけど。
声が出ない。
蘭は私の頬から手を放すとその場にしゃがみ込んだ。
「蘭?」
私の精神状態は、ギリッギリのところまで来ていた。
この屋敷での生活で、唯一の癒しと言えば渚くんだったのかと、
改めて理解した。
渚くんたちが住む小屋で、シュロさんと渚くんとトランプをしていた時間が懐かしい。
自分の愚痴を聴いてくれる相手がいない。
溜まっていく一方。
この一週間で食欲がなくなり。
昼食に出されたサンドイッチを黙って見つめていた。
「カレンさん、せめてスープだけでも召し上がってください」
シュロさんが緑色のスープを目の前に置いた。
「ありがとうございます」
私はシュロさんにお礼を言う。
けど、スプーンを手に持ったまま手が動かない。
食べて何になるのだろう?
ここで生活して何になるのだろう?
食べて、勉強して何になるのだろう?
意味はあるのかって。
考えるようになってしまった。
毎晩、寝る前に泣き果てて。
上手く眠れない日々が続く。
今日も明日も、ずっとつまらない毎日が続く。
そう考えると。
何もかもがどうでもよくなってくるのだ。
「カレン、朝食も食べなかったでしょう。食べたほうがいいわ。シュロは、料理の才能だけはあるんだから」
「料理だけって言うな!」
近くに立っていたサクラさんは、本日。男性モードらしく。
男の姿で執事の服を着ている。
サクラさんの毒を含んだ物言いに、シュロさんは怒りながらもこっちを見ている。
2人が見ているのだから。
少しは食べなきゃと思いながらも。
手が動かない。
「おいっ。シュロ。パンを用意しろ」
スープを目の前に固まっている私の前に。
大声で蘭がやってくる。
ああ、今。いっちばん会いたくない奴なのに。
どうして、来るかな・・・。
思いとは裏腹に、蘭は目の前に座った。
「何だ、おまえ。ずっと食欲ないんだって?」
蘭の大きな目が私を見つめる。
とっさに私はサクラさんを睨んだ。
蘭に告げ口をするのは、サクラさんしかいない。
サクラさんは、こっちに向かってにっこりと微笑んだ。
何で、この人。微笑んでるんだろう・・・
「おまえ、ただでさえ。ガリガリで色気がないのに。食べろよ」
蘭は運ばれてきた白パンを口にする。
蘭にだけは、ガリガリと言われたくないっ。
「食欲がないので、これにて失礼します」
私は立ち上がる。
蘭はこっちを見て睨んだ。
「おい。ちゃんと食べろって言ってるだろう」
大声で言う蘭だが。
そんなのどうだっていい。
「食欲がないので、大丈夫です」
「あのなー、おまえはちゃんとここで健康に生きる義務があるんだよ」
蘭の一言に。
張りつめていた糸が切れそうになる。
「それは…、私の兄と約束したからですか?」
蘭に負け時と睨み返した。
サクラさんとシュロさんは黙って私達を見つめている。
「そうだ。俺はアズマにおまえを託されているからな」
私は思わず「はっ」と鼻で笑ってしまった。
「いくら命の恩人である兄の頼みだからって、蘭様は心の中ではイヤイヤ我慢されているのでしょう?」
「…どういう意味だ?」
蘭は皿の上にパンを置いた。
だいたい、外見と中身がちぐはぐすぎる。
整った顔をしているのに。
目の前にいるのは悪魔だ。
「蘭様とあろう方が没落した貴族である上に、こんな顔に痣のある醜女を嫁にするなんて。おかしなことではありませんか?」
蘭に負け時と大声で、ゆっくりと言った。
「あなた様の恩恵は充分に受けております。兄だって納得されていることでしょう」
皮肉を込めて言うと。
蘭は、ガタンと勢いよく立ち上がってこっちへと近づいてきた。
私の前に立ったかと思うと、手を振り上げたので。
シュロさんとサクラさんは「おっ」「あっ」と声を漏らす。
私は叩かれると思い、目を閉じた。
だけど、顔に痛みを感じることはなく。
痣の上から、手の温もりを感じる。
恐る恐る目を開けると。
蘭が今にも泣きそうな目をして私の頬に触れていた。
「俺がおまえのことを気持ち悪いだなんて思ったことは一度だってない」
「なっ…」
何言ってるの…と言おうとしたけど。
声が出ない。
蘭は私の頬から手を放すとその場にしゃがみ込んだ。
「蘭?」