珍しく、朝から雨が降っている。
我がティルレット王国で、朝から雨が降るのは珍しい。
雨が降るとしたら、いつだって夜で。
こんな朝からずっと雨が降るのは本当に珍しい。

薄暗い空間。
湿度が高く身体がだるい。
本当ならば、朝からライト先生が来て授業をするはずだったのに。
この雨のせいで、ライト先生が来られないと連絡があった。
…と、サクラさんに言われた。
急な休みのせいで。
私は何をしようかと考え。
午前中は勉強をしたり、読書をして。
昼食後は、ピアノの練習をしていた。

音のない屋敷で。
ピアノの音が虚しく鳴り響く。
玄関前のホールに置かれたグランドピアノを引き続けていたが。
何だか、ため息ばかり出てくる。
こんなに雨が降るとダルいとは思わなかった。

楽譜を眺めながら。
何度目かのため息をついていると。
トントンッと、玄関の扉から音がする。
私は手を止めて、扉に注目する。

トントンッ。

多少、乱暴にも聞こえるノックの音に。
誰だろうと考えてしまう。

この屋敷にお客さんなど来たことなんて一度もない。
少なくとも私は見たことがない。
もしかして、渚くんか、クリスさんだろうか。

そう思って。
扉を開けた。

ガチャ。

扉をゆっくり開けると目に入ったのは金髪だった。
見慣れない姿に思わず、「きゃっ」と悲鳴をあげてしまう。

目の前に立っているのはサングラスをかけた男の人だった。