シュロさんの声だった。
私は膝を折り曲げた状態で祈るしかなかった。
ここで、シュロさんにバレるわけにはいかないー。

「こっちこそ、シュロくん。何してんの? 買い出し行くって言ってたよね?」
落ち着いた声でクリスさんは対応しているようだ。
「買い出し思いのほか、早くすんだからさー。クリスこそ、何、その箱? 何が入ってんの?」
…心臓が止まるかと思った。
バレたら、もうここで終わりなんだと泣きそうになる。
「シュロくん。この箱触らないほうがいいよ」
落ち着いた声でクリスさんが言った。
「なんでだよ」
「だって、コレさ、蘭に頼まれたやつだよ」
「え…」
「俺も何が入ってるのかは知らないんだけどさ。蘭が町まで運べって言うんだ。蘭のことだから、シュロくんが触れただけでもブチ切れると思うよ」
「やっべー」
シュロさんが大声を出す。
「そういうわけだから、ちょっと町まで行ってくるわ。このこと、誰にも言わないでねー。蘭に口止めされてんだから」
「絶対に俺、言わないわ。てか、俺。記憶力悪い男で良かったー」
ゆっくりと台車が動き始める。
カラカラと音を立てて。

「シュロくん。馬鹿だから、テキトーにいいくるめれば、問題ないんだ」
独り言のように、クリスさんが言った。
暫く、台車で運ばれていると。
急に止まる。
そして、ふわっと身体が宙に浮いた。
浮いたかと思えば、ドンッと乱暴に置かれたので、お尻が痛い。

「俺が出てきていいよって言うまで絶対に出ないで」
それだけ言うと。
クリスさんの気配がなくなる。
暗かった。
車の中なのかな?
キッチキチの箱の中でアレコレ考えているうちに。
車が動き出した。