クリスさんは、渋々だけど承知してくれた。
但し、私が授業のない休日だったら…という条件だった。
「昼食後、サクラには『部屋で休むから邪魔しないで』とでも言って。念の為、夕飯も要らないって言っておくといい。そうしたら、誰にも見つからないように食堂の裏口へ行って。いい? 誰にも見つからないように。そうしたら、俺。そこで待ってるから」

クリスさんに言われ。
ドキドキしながら、休日の日を待った。

午前中は、勉強をしたりピアノの練習をして過ごした。
昼食を食べ終えて。
部屋に戻ったところで。
サクラさんに言った。
「サクラさん。ちょっと、疲れちゃって。部屋でこれから休むね」
「そうなの? 大丈夫?」
「うん。お昼食べ過ぎちゃったから、夕飯もいらないから。今日はもう、部屋に来なくていいよ」
声が震えてないだろうか。
いつも通り言ったつもりだったけど。

心臓の音がうるさい。
サクラさんは「わかったわ」と言った。

自分の部屋に戻って。
暫く時間を潰した後。
そっと扉を開けて廊下に誰かいないかを確認する。
蘭は朝イチで、出かけてしまったから。
出くわす可能性はない。

そろそろと、一階に下りて。
食堂のほうへ向かう。
本来は玄関から出て食堂の裏口まで行けばいいのだろうけど。
外に出てしまったら、渚くんか、ビビに絶対に嗅ぎ付けられる。
食堂の一歩手前の廊下の窓を開けて。
外に出る。

心臓のバクバクは止まらない。
けど。
何でだろう。
どこかワクワクした気持ちがある。
小走りで、食堂裏に走ると。
既にクリスさんがいた。
「カレンちゃん。すぐにコレに着替えて。俺ので悪いけど。着替えたらすぐに、この箱の中に入って」
クリスさんは早口で言うと。私に男物の服を差し出した。
白いシャツ、黒いズボン、黒の帽子。
「俺、後ろ向いてるから大丈夫。急いでね」
そう言うと、クリスさんは背中を向ける。
ここで着替えなきゃいけないの? と思ったけど。
恥ずかしいだなんて思っている暇なんてない。

黒いドレスを脱ぎ捨てて。急いで服を着替える。
「クリスさん着替えました」
「じゃあ、その着替えたドレスは、そっちの箱の中にでも入れておいて」
幾つもの箱が積み重ねているうちの、一番上の箱にドレスを入れる。
「箱の中に入っている間は、絶対に動かない。声を出さないように」
「はい」
木箱の中に入ると。
クリスさんは蓋を閉めた。

ゆっくりと、私が入っている木箱を。
台車で運ぼうとする。

「あれ、クリス? 何してんの?」
聞き覚えのある声に。
私は心底、「神様ー」と絶叫した。