そして夕方、アイリーンは一枚のレースを編み上げた。
模様は花柄がちりばめられたもので、普通の人ならば、一日で編み上げることはできない。

教えているはずのティーナ伯爵夫人も同じ模様を編んでいるにもかかわらず編んだのはアイリーンの半分程度。

「やはり、アイリーン様はレース編みがお得意なのですね。
今日教えた模様もすでに完璧に編むことができるのですから。」

「ティーナ伯爵夫人の教え方がいいからです。
それに手先を動かすのがほかの人よりも少しだけ得意なだけ。」

そしてティーナ伯爵夫人はアイリーンの編んだレースをまじまじと見て、何か思いついたらしくアイリーンに声をかけた。

「アイリーン様、白系のドレスはお持ちですか?」

「真っ白はないけど、淡いクリーム色のドレスなら持ってるわ。
でも、どうして?」

「そのドレスにアレンジを加えてウェディングドレスみたいにしませんか?」

とっさの申し出にアイリーンはすぐには答えられなかった。

まだ結婚式の日程は決まっていないけれど、それまでにやることがいっぱいあってできるかわからない。

それがアイリーンの本音だった。

その時、リンネの部屋とは反対の続き扉からノックする音が聞こえた。

そしてその扉からヴァルテリが入ってきた。

「こんなところから入るのは悪いと思ったが…
アイリーン、これは君が編んだレースか?」

ヴァルテリはアイリーンの近くにあったレースを手に取ると首をかしげながら聞いてきた。

「ええ、私が編み方をティーナ伯爵夫人から聞いて編んだものです。」

「こんなにも繊細な模様をわずか一日で編むのは才能があるからだ。

アイリーン、こんな言い伝えを知っているか?

花婿になる者、花嫁になる者に刺繍をしてもらえば出世する。
花嫁になる者、花婿になる者から贈り物をもらうと円満な家庭が築ける。

花嫁、花婿、それぞれ汝で作成したものを身に着ければなおよし。

だから、そのレースを使ってドレスをアレンジしてほしい。
時間が必要だろうから、午後は作り終えるまでレース編みなどをして構わない。
それも淑女のたしなみだからな。

それと当日私が着る軍服にスリジエの刺繍をしてほしい。
スリジエの花はこの国の象徴でもあるし、何よりもアイリーンを象徴するものだ。

お願いできないだろうか?」

「わかりました。
レースを使ってドレスをアレンジします。

刺繍は少し苦手なのですが、ヴァルテリ様のことを思いながらやってみます。

ティーナ伯爵夫人、今後もよろしくお願いします。」

アイリーンはヴァルテリに力強く、ティーナ伯爵夫人に敬意をこめて言葉を述べた。