高校に入学してから2週間くらいたったとき。


その日の体育はクラスの仲を深めるっていう意味で、男女合同でサッカーをした。


男子がサッカーを楽しそうにしているときに、私たち女子はおしゃべりに夢中になってて。


男子のこぼれ球に気が付かなかった。


「女子避けろっっっっ」


やばい、こっち来る。


バシッ


自分の腕でなんとかボールを止めた。


隣のりりいに当たってたら、ほんとに洒落にならないし。



りりいやばいくらいに細いからね。


「りりい大丈……」


「りりいちゃん大丈夫!?」


「怪我してない!?!ほんとにごめん!!」


男子たちが一斉にりりいに駆け寄る。


一応私もここにいるんですけど……


っていうか、さっきボールを受け止めたところめちゃくちゃ痛い。


なんか赤く腫れてるし……


でも今痛いなんて言ったら、気遣わせるよね。


みんなりりいのほう見てるし、保健室行ってもバレないかな??


そう思ってそっと立ち上がろうとした時。


ガシッ


違う方の腕を掴まれた。


だ、誰!?


「羽瀬さん腕怪我してるでしょ」


無表情にそう言ったのは、
小山慎《こやましん》くんだった。


確か、入学式の日からイケメンだって騒がれてたはずなんだけど。


っていうか私の名前知ってたんだ。


「うん、ちょっとね。
でも全然痛くないから大丈夫だよ!!」


全然痛くないは嘘なんだけどね。


それにしても私まで心配してくれるなんて、やっぱりイケメンてすごいなぁ。


「保健室連れてく」


「いいよいいよ!?大丈夫だよ!!」


イケメンと2人きりはちょっと……
何話せばいいのかわかんないし。


「でも俺らのせいだから。」


うえええ、でも……


「いいから行くよ」


そう言って小山くんは私の腕を引っ張った。


意外と強引だな小山くん!?


イケメンってみんなこうなの???


小山くんに引かれながらとりあえず歩く。


「……怪我、ほんとにごめん俺らのせいで。」


「ほんとに大丈夫だって!!
こっちこそごめん保健室付き合わせて……」


「いいって。俺が連れてくって言ったんだし。」


「いや、でもりりいの方に行きたかったでしょ??」


こんな芋女の方で申し訳ない……


「え?なんで栄《さかえ》さん?」


「だってりりいめちゃくちゃ可愛いじゃん。」


「そう?俺は栄さんより、羽瀬さんの方が可愛いと思うけど。」


ん??何を言ってるんだ小山くん。


からかってるのか?


「冗談やめてくださいきついっす。」


「いやべつに冗談でもないけど」


じゃあなんでだろう、目悪いのかな。


はっ、まさか……!!


「小山くんまさか、B専!?」


それならありえるけど!!


小山くんはぶはぁっと吹き出した。


え、変な事言った??


「そんなわけないじゃん、羽瀬さん変な人だねー」


へ、変な人!?


これでも至極真っ当に生きてるんですけど!!


ていうか、小山くん笑うとめちゃくちゃかっこいい。


いや真顔でも十分イケメンなんだけど。


もっと笑えばいいのに。


その後も他愛のはない話をしていたらあっという間に保健室に着いた。


「失礼しまーす」


中には誰もいないみたいで、しんとしていた。


「勝手に入っちゃって大丈夫かな……」


「大丈夫でしょ。それより羽瀬さんこっち。」


小山くんが近くにあったイスをポンポンと叩く。


座れってことかな??


「なにするの?」


「決まっんじゃん、羽瀬さんの手当て。」


「いや、ほんとにそれは大丈夫!」


男子に免疫がない私からしたら、イケメンに手当されるなんてハードルが高すぎる!!


「だめ。ほら腕出して。」


強制的にイスに座らされた私はおずおずと腕をだす。


「羽瀬さんはもっと自分を大事にした方がいいよ。」


「ごめん、私雑すぎるもんね……」


「違くて。」


「羽瀬さんは女子でしょ。
可愛いんだから、自信もって。」


女子。可愛い。


生まれて初めて言われた。


はい、手当終わりって言ってる小山くんの声も耳に入らなくて。


顔が真っ赤になるくらいに恥ずかしくて、嬉しかった。


初めての女の子扱いに、
初めて言われた可愛い。


男子に慣れていない私が恋に落ちるのは一瞬で。


私は、小山慎くんに恋をしてしまった。