「確かに得意だと言ったら噓になるけど、葵と一緒ならどこでも楽しい。だから葵は、そんなこと全く気にしなくていい」


「隼翔……」


「ほら、昼ごはんを食べに行くところも決まったし、行こう、葵」


「うん」


 葵は笑顔に戻り、オレはそんな葵を見てほっとした。





 しばらく歩くと店が見えてきた。


 そして店に着いた。


 今日は、いつもよりはカップルが少なかった。

 家族連れや友達同士のお客さんもまあまあいた。

 それだからか、いつもより落ち着いて食べることができた。





 オレと葵は昼食を済ませ、次はどこに行きたいか話していた。


「隼翔」


「うん?」


「あの場所に行きたい。オレたちの思い出のあの場所に」


「ああ、そうだな。行こう、オレたちの思い出のあの場所に」


 そしてオレと葵は思い出の場所へ向かった。



 春の匂い……。


 思い出のあの場所へ向かって歩いていると、ほのかな春の匂いが風に乗ってやって
きた。


 良い匂い……。

 心が穏やかになるような、そんなやさしい匂い……。


 そんな春の香りに包まれながらオレは葵の方を見た。

 葵も春の香りに包まれて、なんだかいつもよりも穏やかな表情に見えた。