「葵?」


「……」


 葵は無言になってしまった。


「葵、本当にいいんだぞ、お前が行きたい店で」


「……本当?」


「ああ、いいに決まってるだろ」


「……じゃあ……あの……たまに隼翔と二人で行っている……ちょっとカップルが多い……あの店でもいい?」


 葵は遠慮している様子だった。


「ああ、いいよ、その店に行こう」


 オレの返事を聞いた葵は少しほっとした様子に見えた。


 葵はきっと遠慮している……。

 オレは葵に遠慮してほしくなかった。


「……気のせいかもしれないけど、葵、あの店に行きたいと言ったときに、ちょっと
遠慮した感じで言わなかったか?」


 オレは、もし葵が遠慮しているのだとしたら『遠慮しなくていいよ』という気持ちを込めてそう訊いた。


「……そんなつもりではなかったんだけど……ただ……」


 葵……?


「……ただ?」


「オレはあの店、結構好きなんだけど、ひょっとして隼翔は、ああいう感じの店が苦手かもしれないと思って。……だから、あの店に行きたいって言うのをちょっとだけ迷ったの」


 葵……。