医大生の翔は、授業が本格的になり みんなと出かける機会が減っていた。

その分 健吾も壮馬も 樹を慕ってくる。


平日でも 樹の帰りが早い日 健吾は自分の家に誘う。


絵里加の手料理で 夕食を食べながら 会話を楽しむ。
 

「俺、来年は ゼミだけになるから、親父の会社で バイトをしようかな。お兄さん、どう思います。」

健吾の 前向きな相談に、樹は感心して言う。
 
「いいんじゃない。早く 会社に慣れようとする姿勢は、他の社員にも伝わるよ。」

樹が 健吾を褒めると、絵里加は 嬉しそうに微笑む。
 

「何から何まで、親がかりじゃ 情けないから。早く 一人前にならないとね。」

そう言って 絵里加と見つめ合う。

そんな二人を見ることは、切ないけれど。


でも、それで絵里加が喜ぶなら、やっぱり近くにいてあげたい。
 

絵里加を慕う 恭子も、始終 健吾の家を訪ねていた。

絵里加と一緒に 買い物に行ったり、料理をしたり。

本当の姉妹のように 仲良くなっていた。
 


「最近、恭子ちゃん、姫に似てきたね。」

健吾の家で、樹と恭子は よく会った。
 
「本当ですか。あっ、これのせいかも。」

目をキラキラさせた 恭子が、着ている服を指して言う。

尋ねる目の樹に、
 
「絵里ちゃんに もらったの。変じゃないですか?」

淡いブルーのワンピースは、まだ高校生の恭子を 少し大人っぽく見せていた。


確かに絵里加も着ていた。

恭子が着ると、絵里加とは 違った雰囲気になる。
 

「似合う、似合う。可愛いよ。」

樹は、言いながら 胸が弾んでいる自分に驚く。
 

「絵里加と恭子ちゃん、サイズが同じだから。お古で悪いんだけど。恭子ちゃん、着てくれるっていうから。」

絵里加は 照れた笑顔をする。満足そうに健吾も頷く。
 
「全然、傷んでないし。すごく嬉しい。」

恭子は、弾む笑顔で言って、
 

「そうだ、お兄さん。私も 経済学部に入れそうなんです。」と言う。
 
「へえ。良かったじゃない。それじゃ、ここにいる全員が 経済学部だね。」

樹の心を、温かい風が 通り抜ける。

恭子の笑顔が、樹を 幸せな気分にしていることに 戸惑う。
 

「まだ決まってないくせに。最後に 落とされないように、頑張れよ。」

健吾のお兄さんらしい言葉に、絵里加はクスクス笑い
 
「ケンケンもね。」と言う。


絵里加の 甘い笑顔は、樹の胸を締めつける。

そして恭子の元気な笑顔に、樹は明るく救われる。


樹は、自分で 認めてしまう。



恭子に 惹かれていることを。