「あ、あのっ! 先日は、すみませんでした……!」


 花が声をかけると八雲は足を止めて視線だけで振り向いてみせる。


「……なんのことだ」

「わ、私……。何も知らずに、生意気なことばかり言っちゃって……。八雲さんは本当は、前の仲居さんのことを守ろうとしてたんですね……」


 おずおずと尋ねると、八雲は短い息を吐く。


「守ろうとしたところで守れなかったら意味がないだろう。だから別に、お前は何も間違ったことは言ってない」

「で、でも……っ」

「俺はお前の言うとおりだと思ったから、そのように振る舞っただけだ。だからお前に謝られる筋合いはない。わかったらさっさと仕事に戻れ、また苦情が入れば今度こそ地獄行きとなるかもしれないぞ」


 先程の虎之丞の萎れぶりを思えば、そうなることもないと予想はつく。

 けれど八雲はそれだけ言って、踵を返して行ってしまった。

 その八雲の背中を見送りながら、花は思わず自分の胸に手を当てる。