(な、なに、これ……)
たとえこれがこの場を乗り切るための嘘だとしても、花はドキドキせずにはいられなかった。
相手が八雲だとわかっているのに、胸の動悸が治まらない。
「す……すまなかった。わ、わしが悪かった」
と、不意に虎之丞が弱々しい声を出した。
「お前さんの言うとおり、お客様は神様……そう、自分は本当に付喪神であるから、その通りに振る舞っても良いと思っていた……」
そう言う虎之丞は先ほどまでの威勢をスッカリ失くして、背中を丸めて縮こまる。
まるで叱られた子供のようだ。大柄な身体が小さく見えて、花はなんだか同情せずにはいられなかった。
「現世で溜まったストレスを、ここで発散しておった。ここでなら、大きな顔ができると思って……。すまん。料理長、お主の作った料理は登紀子さんに負けないくらい美味い。それにそこの娘も……威圧的なことばかり言って、悪かったの。アジフライはお前の言うとおり、絶品じゃった」
シュンとする虎之丞は、よほど八雲の言葉が堪えたのだろう。
そうなると八雲は一体何者なのかと花は喉を鳴らしたが、八雲本人に尋ねられそうもない。
本当に身体が縮んだのではないかと思うほどの虎之丞の萎れっぷりに、花も先程までの理不尽な言い掛かりも頭の片隅へと追いやられた。
「こ、この通りじゃ。本当に、すまなかった……」
「そ、そんな、頭を上げてください……! 私はただ、虎之丞さんにちょう助くんのお料理を食べてほしかっただけなんです!」
もちろん、ちょう助を侮辱したことには腹が立ったが、それでも一口でもちょう助が作った料理を食べてくれたらきっと満足してもらえるはずだと思っていた。