「お客様は神様だという言葉が現世にはありますが、それは別に神様だから横暴な振る舞いをして良いという意味ではないのです。虎之丞殿は先々代の頃からの常連様で、つくもにとっても大切なお客様です。ですがこれ以上、私の部下の心を痛めるような行為をなさるのなら、私も黙っていられません」


 そこまで言うと八雲は、スッと花へと目を向けた。


(え……?)


 突然のことにドキリと花の胸の鼓動が跳ねる。

 花は反射的にギュッと膝の上で拳を握ると、八雲の艶のある目を見つめ返した。


「そして何より、私の伴侶となる彼女を貶めるというのであれば、いよいよ容赦は致しません。彼女を守るのは将来の夫である自分の務め。刺し違えるご覚悟を持って、常世の神にご報告なさいますよう肝に銘じていてください」


 一縷の迷いのない声で言った八雲は、カミソリのような鋭利な眼差しを虎之丞へ向けた。

 それは決して宿の主人がお客様に向けてよい目ではなく、緊迫した空気が部屋の中には立ち込めた。

 けれど、八雲の隣に座す花の胸の鼓動はトクトクと甘い音を奏でていた。

 まさか八雲が、自分を庇ってくれるとは思わなかった。

 それも、自分を守るのが将来の夫である自分の務めとまで言って……。