「そ、そうか……。じゃ、じゃが、それとこれとは話が……」


 かくいう八雲は、虎之丞のその心の揺れを見逃さない。

 自然に瞳から温度を消すと、改めて姿勢を正して虎之丞と対峙した。


「というわけで……ここからは、僭越(せんえつ)ながら私個人の気持ちを述べさせていただきます」

「な、なんじゃと……?」

「先ほどの虎之丞殿のちょう助への侮辱の数々に、私はつくもの主人として、大変な憤りを覚えました」


 虎之丞のように声を張り上げているわけでもない。

 それでも八雲の言葉には有無を言わさぬ力強さがあって、虎之丞はとうとう口を噤んだ。


「前任の仲居についても、私の力が及ばず守り切ることができませんでした。あのとき私がもっとしっかりと盾になることができていれば、自ら職を辞すという選択をさせるようなこともなかったでしょう」


 八雲の言葉に花は思わず目を丸くする。

 花が思い出したのは数日前、八雲に啖呵を切ったときのことだ。

 あのとき花は、『前の仲居が辞めたのは、八雲のせいだ』というようなことを言って八雲を責めた。

 その上、『従業員を守れない主人など、主人失格だ』とも言ったのだ。

 だけど今の言葉を聞いた限りでは、八雲は前任の仲居を守ろうと尽力したということだった。


(そうとは知らずに、私はあのとき八雲さんに酷いことを……)


 青ざめる花の隣で、八雲は淡々と言葉を続ける。