「な、なんじゃ、八雲……っ。貴様までわしに楯突こうというのか!」


 八雲は声を上げた虎之丞に答えるように一度だけ瞼を閉じる。


「いえ、滅相もございません。しかし、部下の無礼は、このつくもの九代目を務める(わたくし)の責任。なのでお叱りはいくらでも私が受けますので、何卒この娘については不問にしていただくようお願い申し上げます」


 そう言うと八雲は、手をついて虎之丞に頭を下げた。

 突然のことに、そこにいる誰もが驚き目を見張って息を呑む。


(な、なんで……?)


 花も事態を飲み込むことができずに、ただ呆然と低くなった八雲の背中を見つめることしかできなかった。


「な、な……っ、なんでお前がそこまでこの娘を庇うんじゃ!」

「それは今申し上げましたとおり、こちらの娘が私の部下であるからです。……そして何より、先刻うちのぽん太がご説明したとおり、こちらの娘は私の妻になるべく現在花嫁修業中の身なのです」

「あ……」


 目を丸くした虎之丞は、怒りのあまり今の今までスッカリそのことを忘れていたらしい。

 途端に焦りが虎之丞の表情に浮かび、視線が居場所を失くしたように左右へ泳いだ。