「そ、それについては、大変申し訳ありませんでした。でも私は、活きあじフライを一口でも召し上がっていただけたらご納得いただけると思って──」
「うるさーいっ!! でも、もへったくれもあるか! 貴様、またお客様であるわしに口答えをしようとしたな!」
また喚き散らし始めた虎之丞を前に、花はどうすることも出来なくなった。
見た目は大柄な人だが、中身はまるで子供だ。
これは確かにぽん太と黒桜が言ったように頑固ジジイ──いや、それ以上の【屁理屈ワガママ爺さん】だった。
「この女を今すぐつまみ出せ! そうでなければ前回のように、つくもの客としてきたわしに無礼を働いた不届き千万な奴がいると常世の神に、直々に物申させてもらう!」
それはつまり、花をクビにしようということか。
そうなると花は必然的に地獄行きが決定し、現世に帰れたとしても平穏な日々は送れない。
「す、すみません! それだけはどうか──」
花はなんとか地獄行きだけは避けるため、虎之丞に頭を下げて詫びようとした。
もうこの屁理屈ワガママ爺さんと、まともにやり合おうとするのは無意味だと思ったのだ。
けれど、横から伸びてきた手が謝ろうとした花を制した。
(え……)
花がハッとして顔を上げると八雲の黒曜石のように美しい瞳と目が合う。
思わずゴクリと喉を鳴らして動きを止めると、八雲の瞳はゆっくりと虎之丞へと向けられた。