「……コ、コホン。掛軸には油ものは大敵だからな。これまで本能的に、揚げ物を避けていたんじゃ」


 大柄な身体とは裏腹に、なんと可愛らしい言い訳だろう。

 付喪神についてまだよく知らない花は、言われてみればそういうこともあるのかもしれないと思って微笑みながら頷いた。


「そうだったんですね。それはこちらの配慮が足りず、申し訳ありませんでした」


 花の素直な受け答えに、虎之丞は一瞬狼狽える。


「だ、だがしかしっ、先ほどの貴様の態度は気に食わんっ」

「え……」


 そして、あろうことかまた駄々をこねだした。


「客に対して、仲居が偉そうに意見するなどあり得んだろう! わしが気に食わんと言ったら気に食わん! 気に食わーんっ!!」


 散々文句を言っておいて、活きあじフライを二枚とも綺麗に平らげた。

 そうなるともう、プライドの行き場もなくなり引っ込みがつかなくなったのだろう。

 虎之丞は捲し立てるようにそう言うと、また花を鋭く睨みつけた。

 確かに虎之丞の言うとおり、先程の花は少々出過ぎた真似をしたかもしれない。

 けれどそれもすべて、ちょう助の美味しい料理を虎之丞に食べてほしかったからだ。

 もちろん、虎之丞のちょう助に対する態度と物言いに、腹が立ったということもあるが──。