「……お客様が吠えている間に、せっかくのお料理が冷めてしまいます」


 背筋をスッと伸ばした花は真っすぐに虎之丞を見ると、凛とした声を響かせた。


「な……なんじゃ?」


 唐突な花の言葉に、八雲とちょう助はハッとして花を見やり、虎之丞は虚を突かれたような顔をする。


「ものは試しに、一口でも食べていただくことはできませんか? そうすれば、必ずご満足いただけるはずです」


 努めて冷静な口調でそう言った花は、虎之丞から一切視線を逸らさなかった。

 そんな花の力のある眼差しを前に虎之丞は数秒固まっていたが、ハッと我にかえると花を鋭く睨み返した。


「き、貴様っ。仲居の分際で、お客様に物申すというのか!」


 苦虫を噛み潰したような顔をして、虎之丞は吠える。

 けれど微動だにしない花を前に野良犬のように呻った虎之丞は、次の瞬間投げやりな態度で乱暴に箸を取った。