「お前のようなガキが料理長だなどと、わしは絶対に認めんからな。わかったら今すぐこの不味そうな料理を下げろ! そして小僧は二度と、わしの前に顔を出すな!」
雷のようながなり声に、ちょう助の表情が今にも泣き出しそうに歪んでしまう。
そんなちょう助を見て、虎之丞は満足そうにほくそ笑むと、フンッと鼻を鳴らして腕を組んだ。
客観的に見れば良い年をした大人が、ワガママを言った子供を怒鳴りつけているふうな画で、完全に萎縮してしまったちょう助は顔色を青くして俯いている。
「そこの女。わかったら、さっさとこの料理を下げんか」
その虎之丞の態度と理不尽な物言いに、花はまた自分の堪忍袋の尾が切れる音を聞いた。
(いい加減にしてよ──)
虎之丞が口をつけていない料理の数々は、ちょう助が前日から仕込みをして丹精込めて作り上げた品々だ。
活きあじフライについてもこの数日間で、ちょう助は夜遅くまで味の微調整をしていたことを、花は知っていた。
そんなちょう助の努力も想いも、虎之丞は酷いこだわりと偏見で踏みにじったのだ。
唇を噛み締め、中傷を受け止める小さなちょう助を前に、花は黙っていることなどできるはずもなかった。