「どうぞ、ごゆるりとお召し上がりください」


 そう言うと花は、ニッコリと笑ってみせる。

 どれも自信を持ってオススメできるものだからこそ、堂々と振る舞える。


「ふ、ふざけるなぁぁああっ‼」


 けれどその直後、地鳴りのような怒号が部屋の中に響きわたった。

 そして先程とは比にならないほどの力で、虎之丞がドンッッ!!と座卓に拳を下ろす。


「定食屋でもあるまいし、メインがアジフライなどと許されるはずもなかろうが! と、登紀子さんはどうした! どうしてこんなものをメインに持ってきたのか、直接理由を聞かんと気が収まらん!」


 取り乱す虎之丞を前に、花は怯みそうになった。

 けれど背筋を伸ばしたまま膝の上で拳を握ると、精一杯気丈に振る舞おうと顎を上げる。


「登紀子さんは、もうここには──」

「申し訳ありません。登紀子さんはつい一ヶ月ほど前につくもを退職いたしまして、今はこちらの包丁の付喪神であるちょう助が、つくもの料理長を務めさせていただいております」


 そのとき、八雲が花の言葉を切った。

 驚いた花が慌てて八雲を見ると、八雲は姿勢を正したまま虎之丞を真っすぐに見据えていた。